毎年のことなのですが、年末が迫ってくると「年末調整」というお仕事が発生します。経理職としては避けては通れない業務です。
実はこの「年末調整」には個人に課される「所得税」の基本が詰まっていて、「年末調整」を理解することで“経理職”としてワンランク成長することが出来ます。
この記事は
★気を付けるべきポイントは?
★作業の流れや全体像がしりたい
こんな事務職の疑問にお答えする内容となっています。今回は事務手続きの流れに絞ってますので、所得税の計算については割愛します。
「年末調整」で何をするのか?
一般的に「年末調整」は「なんか税金が戻ってくる」行事のように思われています。確かに戻る方がほとんでですが、中には追加で所得税を徴収される方もいます。
年末調整って必ず税金が戻ってくるものじゃないの?
そうですね年末調整の結果、追加で税金がかかる人は少ないですがいますね。
では「年末調整」ってそもそも何なのかを事務初級者のために解説します。
毎月の給与事務での「源泉所得税」
経理や総務で「年末調整」に携わる方は毎月の給与計算業務にも携わっているでしょう。中には教えられたマニュアル通りに業務をこなすだけの方もいるかもしれませんが、その中身を知ることで視野が広がります。
アナログな作業は意外と知識が付くものです。
給与計算で総支給額から非課税扱いになる通勤手当などを除き、さらに社会保険料等を控除したあとの金額に対して「源泉所得税」が課されます。
この「源泉所得税」ですが、どんなものかと言うと「この収入金額のペースが続けば、年間の所得税はこれくらいになるだろう金額」の12分の1、すなわち月額の予定税額です。
現在ほとんどの会社で給与計算ソフトを使い、源泉所得税も自動で計算されるでしょうが、一度は勉強のつもりで手計算してみることをお勧めします。
「年末調整」って何を調整するのか?
毎月の給与から引いている「源泉所得税」が仮のものだと分かりました。仮のものはどこかで正規のものにしなければなりません。正規の年税額を計算し、仮の税額との差額を調整するのが「年末調整」です。
では、なぜ”年末“にするのでしょうか?それは日本の所得税は「年ごと」に課税されるからです(例えば「令和2年分」)。
法人の場合は「3月決算」や「9月決算」などの決算期の2か月後(申請により3か月後)までの確定申告ですが、個人の所得は「年毎」に統一されています。
個人は決算時期を選べないのね。
年末調整の対象になる「給与所得」ですが、所得帰属の基準は「その支給を受けた日」となっていて、つまり賞与を含む12月の支給額が決定したときに、その年の所得が確定し年税額も計算できます。
「年末調整」でする作業と気を付ける点
年末調整の基本は分かりましたが、ここからは実際の作業について考えていきます。令和2年分の年末調整から生命保険料控除などの証明書が電子提出が可能になりましたが、実際はまだまだ「紙ベース」が続くでしょう。
従業員から膨大な量の紙が集まり、それを整理しなければなりません。令和2年分であれば以下の「申告書」とそれに付随する「証明書」が提出されてきます。
基礎控除申告書兼配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書
やたらと長い名前の申告書ですが、この申告書は令和2年分で初登場したものです。これまでは自動的に基礎控除(令和元年以前は38万円)を適用していましたが、控除額が令和2年分以降は最高額が48万円となり、原則この申告書を提出しなければならなくなりました。
というのも所得税の改正で、所得によって基礎控除額が変わり給与支払者はそれを確認する必要があるからです(あくまで原則ですが・・・)。
実際のところほとんど関係のない作業です。なぜかというと基礎控除額が減らされる人というのは「年間所得が2,400万円を超える人」なので、まあ一般人には関わりのない領域の話です。
むしろこの「申告書」のメインは「配偶者控除等」の部分です。実は経理初級者が陥る罠がここに潜んでいます。
意外と知らない人が多い「収入」と「所得」の違い
「配偶者控除」の要件は「所得48万円以下(令和元年以前は38万円以下)」で、それを超えても所得133万円以下まで「配偶者特別控除」を受けられます。
従業員から申告書が提出され、配偶者の所得欄に各自記載してくるのですが、「所得」と「収入」の違いが分からない人が多く判断に迷う事がかなりあります。
最近はネットビジネスなど副業的なことをされる方も増えましたし、「収入から経費を引いた金額が所得」だという事を周知されることを強くお勧めします。
※給与所得はこちらも参考になります
保険料控除申告書
生命保険や地震保険などの保険や、国民健康保険や国民年金などの公的保険の控除を受けるための申告書です。
生命保険や地震保険については各保険会社が控除対象の保険について「控除証明書」を発行し、それを添付して提出されるので難しいことはありません。
気を付けるべき点は「国民年金」などで、例えば大学生の子供の国民年金を負担していたり、年の途中で就職した方が入社前に払っていた「任意継続保険」や「国民健康保険」なども控除の対象になります。
控除できるのは「その年に払った保険料」なので、前年分が入っていないかなど確認をしましょう。
扶養控除等(異動)申告書
この申告書は毎年最初の給与を受ける前日までに提出されるもので、年末調整時に翌年分を一緒に提出することが多いでしょう。
本来は年の途中で扶養家族に異動があったときは都度提出されなければならないのですが、無視されていることも多く「いつの間にかお子さんが就職されていた」と年末調整時に判明することもあります。
この扶養家族の異動届出忘れは、そく年末調整時の税額不足に直結しますので気を付けましょう。
申告書が提出されたら、扶養親族に異動がないかと所得がどうなのかはよく確認するようにしましょう。
住宅借入金等特別控除申告書
住宅の購入や特定の増改築をするため借り入れをした人が受ける控除です。これは所得控除ではなく、ズバリ税額から引く「税額控除」なので還付効果は絶大です。
申告書は自己申告が基本なので、とうぜん本人が必要事項を記載していますが記入間違いも散見されるので、銀行の発行する「借入金残高証明」ともどもよく確認するようにしましょう。
「年末調整」終了後の作業について
提出された書類を確認・整理し年税額との差額を調整した後は、税務署や各市町村への提出書類の作成や、調整した税額を「源泉所得税」の支払い時に差し引きする作業になります。
「年末調整」は計算が終わって終了ではなく、ようやく折り返し地点なんですね。
納付税額の調整
一部の事業所を除き、大抵は従業員の給与から引いた「源泉所得税」を翌月10日までに税務署へ銀行経由で納付していることでしょう。
年末調整を終え従業員へ還付した所得税は、国に代わって会社が立て替えている状態です。そのため12月分の「源泉所得税」の納付からその立替分を引いて納付することになります。
例えば「住宅借入金等特別控除」の該当者がたくさんいる場合など、還付税額が多額になると精算するまで何か月かかかることもあります。その場合は0円納付なので金融機関へ出せないので、税務署に直接提出しなければなりません。
源泉徴収票と給与支払報告書の作成・提出
年末調整の計算が終わり、ここからの作業は書類の大量作成業務となります。従業員の年間の収入や所得が確定したら、それを税務署や従業員が1月1日時点で居住している市町村へ報告しなければなりません。提出期日は1月31日です。
税務署へ提出する書類は「法定調書」といわれるもので、「源泉徴収票」だけではなく、税理士や弁護士に払ったものは「報酬の支払調書」、個人に払った地代家賃は「地代家賃の支払調書」など、けっこうな作業量となります。
税務署に提出する法定調書ですが、全てを提出するわけではなく給与所得の「源泉徴収票」であれば役員でなければ支払額500万円以上の人が対象です。
手書きの源泉徴収票は税務署提出用のものは4枚複写で、他の源泉徴収票が緑色のかがみなのに対しオレンジ色で、「俺も早くオレンジ色になりたい!」と思ったものです。
市町村へ提出する「給与支払報告書」は原則全員分提出します。原則というのも、一部市町村では”特別な事情”がある場合は30万円以下のものは提出を免除されるからです。基本は全員分です。
この「給与支払報告書」を提出することによって、都道府県民税や市町村民税が決定される仕組みとなっています。まさに「ガラス張り」ですサラリーマンの稼ぎは。
まとめ
「年末調整」の準備段階から報告まで、手続きや作業に絞って解説してきました。各作業については「慣れ」が重要で、最初は細かい字がびっしり並んだ書類に気を失いそうになるものです。
今は計算だけでなく、法定調書等の作成まで給与計算ソフトがこなしてくれ、昔のような手書きの苦労はなくなりました。しかし確認作業については人頼りな部分も多いので、自分が何をやっているか理解しながら作業に努めましょう。
これから「年末調整」本番の時期ですが、作業しながら学んでスキルアップにつなげてください。