社会に出て働くようになると、それまでは知らなかったことが多く存在します。知っている人にとっては”常識”だとしても、最初は皆が知らないものです。
自営業などは別ですが、会社勤めをしてお給料を貰ういわゆる「会社員」の場合、12月になると「年末調整」という名前を聞くことになります。
この記事ではその「年末調整」について、超簡単に説明していきます。
日本の所得税のしくみ
国民の義務の中に「納税の義務」というものがあります。そう稼いだら税金を払わなければならないのです。では税金は何に対して課税されるのか?「所得」です。
貰ったものが所得なのかしら?
なんか、そうではないようなんだが・・・。
「所得」ってなに?
経理職をやっていると「収入」と「所得」の違いを説明する場面が多くあります。これって「給与所得」で一番分かりづらい点なのだと思います。
例えば商売をやっている方だと、収入から経費を引いた残りが「所得」なので、非常にシンプルで分かりやすいのですが、「給与所得」における”経費”部分って何なのでしょうか?
給与所得控除
「給与所得」の経費部分はあらかじめ決められており、それを「給与所得控除」といいます。決められているから会社員の税金は「ガラス張り」と言われるんです。
令和2年分以降の給与所得控除は下の表のとおりですが、給与収入が660万円以下の場合は「年末調整のための給与所得控除後の給与等の金額表」で金額を求めます。
給与等の収入金額 | 給与所得控除額 |
1,625,000円まで | 550,000円 |
1,625,001円 ~ 1,800,000円 | 収入金額 × 40% - 100,000円 |
1,800,001円 ~ 3,600,000円 | 収入金額 × 30% + 80,000円 |
3,600,001円 ~ 6,600,000円 | 収入金額 × 20% + 440,000円 |
6,600,001円 ~ 8,500,000円 | 収入金額 × 10% + 1,100,000円 |
8,500,001円以上 | 1,950,000円(上限) |
部下を飲みに連れていったり、もっと経費が掛かっていると思うのですがね・・・。
確かに不満を感じる方は多いですよね。しかし給与所得に関してはどうにも出来ません。
給与所得控除の下限額が55万円となっていますので、103万円の給与をもらっている方の所得は「103万円-55万円=48万円」となり、扶養控除を受ける要件である「所得48万円以下」の壁が給与103万円と言われる理由がこれです。
所得控除
給与所得控除後の「給与所得」にそのまま税金が課されるわけではなく、その所得から色々な所得控除がなされます。
主な所得控除は以下のとおりです。
【基礎控除】 もっとも基本的な”自分の”控除です。控除額は48万円ですが、令和2年分の年末調整から少し面倒になり、「令和2年分給与所得者の基礎控除申告書”兼”給与所得者の配偶者控除等申告書”兼”所得金額調整申告書」を給与支払者に提出しなければ「基礎控除」を受けられなくなりました。
基礎控除も申告書を出さなきゃダメとは、面倒になりました。
【配偶者控除等】 後で説明する扶養控除と同じですが、配偶者控除をうける条件は、配偶者の所得が48万円以下の場合です。それを超えた場合は配偶者の所得が133万円まで「配偶者特別控除」を受けられます(本人の所得による)。
【扶養控除】 子供など扶養する家族の人数に応じた控除です。平成23年分の所得税から「その年の12月31日に16歳未満」の子供は控除対象から外されました。それはなぜかと言うと、税金の控除ではなく手当の支給へ移行したからです(当時は”子ども手当”現在は”児童手当”)。また扶養控除には通常大学生になる年齢の負担を軽減する「特定扶養親族」の控除や、老年者や障がい者に対する上乗せもあります(障がい者に関しては本人も該当)。
年末調整の確認作業で「マイナンバー」と並んで面倒なのが生年月日の確認です。どうか正確に記入してくださいね。
【各種保険料控除】 通常であれば会社員は社会保険や厚生年金に加入していますが、その保険料も全額所得控除の対象です。また年の途中で就職した場合にそれまで自己負担していた国民年金や健康保険料も控除の対象です。これら公的な保険以外にも、生命保険や地震保険なども限度額はありますが、それぞれ所得控除されます。
健康保険や年金ですが、控除の対象になるのは”その年”に支払ったものです。遅れて翌年に払ったものは”翌年分”の控除なのでお気をつけください。
【その他控除】 年末調整で関わる控除では、”寡婦控除”や”ひとり親控除”があります。男女平等と言いながら、ここでは少し女性が有利になっていて、寡婦控除の要件で「夫と死別又は生死の明らかでない人」で「合計所得が500万円以下」の人とあり、ここの部分だけ女性しか控除を受けられません。なぜなんでしょうね?
課税される所得税
給与所得控除後の所得から各所得控除を差し引いた金額(課税所得)に対して所得税が課税されます。税率は下のとおりとなっています。
課税所得 | 税率 | 控除額 |
1,000円 ~ 1,949,000円 | 5% | 0円 |
1.950,000円 ~ 3,299,000円 | 10% | 97,500円 |
3,300,000円 ~ 6,949,000円 | 20% | 427,500円 |
6,950,000円 ~ 8,999,000円 | 23% | 636,000円 |
9,000,000円 ~ 17,999,000円 | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円 ~ 39,999,000円 | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円 ~ | 45% | 4,796,000円 |
例えば課税所得が200万円であれば、「2,000,000円 × 10% - 97,500円」で102,500円が所得税となります。
さらに、この所得税に対し令和19年までは「復興特別所得税」として2.1%上乗せされます。これは知ってのとおり「東日本大震災」の復興のための税金です。
余談になりますがこの復興のための上乗せは、法人税に対しては2014年3月30日で終了しています。なんでだよ?・・・と思いますよね、ホント。
で、年末調整って?
ここまで会社員の所得税について簡単に解説してきました。日本の所得税は「自己申告」が基本なのですが、給与所得に関しては給与支払者(会社)が受給者(会社員)の代わりに税額計算をして、申告の代行をしてくれています。
そして確定した年税額と、それまで給料から(仮に)引いていた「源泉所得税」との差額を調整するのが「年末調整」なのです。
多く徴収していたら戻しますし、少なければ徴収します。私も長い間経理をして年末調整をしてきましたが、ほとんどの場合は多少なりとも税金が戻る、つまり還付になります。
ところが給与の変動が大きかったり、年の途中で扶養家族が減るなどのケース以外でも何故か税額不足になるケースがあります。「可哀そうに」と内心思いますが仕方ありません。
ちなみに、ギリ健康保険の扶養に入る人のケース
健康保険の扶養家族に入る「130万円」以内で働くパートの方は多いと思います。そんな人の年末調整をザックリ試算しましょう。
130万円以内なので、月108,000円の給料と仮定して計算します。この金額だと月々引かれる源泉所得税は1,130円です。つまり年間13,560円が仮に引かれます。
①収入 108,000円 × 12か月 = 1,296,000円
②所得 1,296,000円 - 550,000円 = 746,000円
③課税所得 746,000円 - 480,000円 = 266,000円
(※基礎控除48万円)
③税金 266,000円 × 5% = 13,300円
④復興特別所得税 13,300円 × 2.1% = 200円
(※100円未満切り捨て)
⑤合計所得税額 13,300円 + 200円 = 13,200円
これで年税額が13,200円と確定しました。それと源泉所得税として引かれていた13,560円との差額360円が年末調整で戻ってくることになります。
まとめ
年末調整について簡単に解説してきましたが、要は「会社がお前の確定申告の代わりをやってくれている!」なのです。
これから12月にかけて年末調整関係者は書類整理で大変です。社会人の嗜みとして、書類の提出は早めにするように心掛けましょう。ホント大変なんです。
社会人として初めて暮れを迎える方をはじめ、年末調整の理解にお役に立てたら幸いです。還付金を手に良い年末を迎えてください(不足の方はお気の毒です)。